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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)861号 判決 1968年11月28日

控訴人 河合利弘

右訴訟代理人弁護士 木島英一

被控訴人 有限会社鳥越商店

右代表者代表取締役 鳥越勇

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、適式な呼出を受けながら当審において最初になすべき口頭弁論期日に出頭せず、よって陳述したものとみなされた控訴状の記載によると、控訴人の控訴の趣旨は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との裁判を求めるというのであるが、その趣旨は原判決中敗訴部分の取消を求めるものであることは、訴訟の経過と弁論の全趣旨とに徴して明らかである。

被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の陳述は、次に掲げるほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴人は、本訴請求は控訴人に対して商法二六六条の三の一項に基づく取締役の責任を追及するものであると述べた。

理由

控訴人は被控訴人主張の事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべく、右事実によれば、東伸商事株式会社の代表取締役である控訴人は昭和四〇年一〇月一一日被控訴人に対しその社員中世古由也を介して靴類の購入を申し込み、その代金支払は四ヵ月先日付の東伸商事株式会社振出の約束手形をもってする旨申し出で、昭和四一年四月一八日までの間に被控訴人から合計七五四万三、一二〇円の靴類の引渡を受け、その代金支払のためと称して被控訴人に対して右会社振出の原判決添付目録記載の約束手形一〇通(額面金額合計四二〇万円)を交付したが、右手形はいずれもいまだ支払がされていないのであり、右靴類は控訴人が右会社の代表取締役として同会社のために代金を支払う意思がないのに騙取したものであったということができる。そうとすれば、控訴人は右会社の取締役としてその職務を行うにつき悪意があったものというべきであるから、商法二六六条の三の一項により被控訴人に対し右行為により蒙った損害を賠償する責を負うものといわなければならない。したがって、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対して前記四二〇万円およびこれに対する右行為の日以後である昭和四一年九月三〇日から支払ずみにいたるまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は失当としてこれを棄却すべきである。

よって、右と同趣旨に出た原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法三八四条一項に従いこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三淵乾太郎 裁判官 三和田大士 森綱郎)

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